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ギリシャ~コルフ島の残念なWorkawayと宝物の出会い~

5月10日にお世話になったミハリスの家を出て、アテネから長距離バスとフェリーを乗り継いでコルフ島に向かった。コルフ島はギリシャの北西、アルバニアとの国境近くにあり、昔はベネチア王国が統治していたためイタリアの町並みや文化が残る島だ。フェリーから見た島はベネチアそのもので、コルフ島の予備知識が全くなかった自分としてはギリシャにいるのにイタリアにも来れたような気がして得な気分になった。

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ここに来たのはWorkaway(世界各地で食事と宿泊を無料で提供してもらう代わりにタダ働きをする、ということを斡旋するサイト:https://www.workaway.info/)を通じて島にあるユースホステルでボランティアするため。私は去年12月にベルリンのユースで初めてWorkawayをして以来このシステムが気に入って、利用するのは今回で5回目になる。お金は稼げなくても、物価が高い国ではだいぶ節約できるので有難い。

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2014年12月、ベルリンで3週間働いたユースホステルにて
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ベルリンで同僚のヘレナと。彼女が私にWorkawayを紹介してくれた恩人
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2015年1月、エジプトのスーダン国境近くの街マルサアラムのゲストハウスで1ヶ月間働いた
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マルサアラムのゲストハウスを経営するイブラヒムとそのお母さんファティマと
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2015年2月、エジプトの紅海沿岸の街ダハブにあるホテルで2ヶ月働いた。これは住んでいたアパートからの景色。
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ダハブのホテルのオーナーのモーとフロントにて記念撮影。
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2015年4月、ヨルダンのワディラム砂漠で10日間ほどツーリストキャンプの管理人をする
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このWorkawayは一番過酷で孤独と暗闇と寒さとの戦いだった。詳しくは後ほど書きます。

コルフ島に向かうフェリーではサンディという女性と知り合った。仕事先のユースホステルに連絡しなければいけなかったので、電話を貸してもらいたくて偶然話しかけたのがサンディだった。サンディは父親がギリシャ人、母親がルクセンブルク人のハーフで一年の半年をアテネ、もう半年をコルフ島で過ごしている。今は持病があるため仕事をしていないが、数年前まで指圧師として働いていたので日本にとても興味を持っていて話に花が咲いた。生まれ育ったコルフ島に家を持っていて、長年のパートナーであるニコと二匹の猫と暮らしているらしい。とても親切で話好きな女性で、私が仕事に慣れて休みをもらったら家に遊びにいく約束をして、仕事先のホステルに向かった。

ホステルはコルフの中心地から車で30分くらい行ったアギオスゴーディオスという湾に面していた。海中からのびる大きな岩や少し荒い山肌が中国の山水画を思わせる、ちょっと変わったビーチだった。

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静かで良いところだと思っていると、突然田舎のラブホテルも真っ青なくらい景観を損なう大きなピンク色の建物の集合体が姿を現した。ここが今回の仕事先だった。

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事前に約束していたメールでは、オーナー女性マグダレーナ(通称マグダ)の自宅にお世話になるはずだったが、通された部屋はマグダが経営するユースホステルのドミトリーだった。このホステルはヨーロッパで5本の指に入るパーティーホステル(若者が集まってお酒を飲んでどんちゃん騒ぎしてハメを外すところ)で、「ピンクパレス」という名の通り建物や内装やバーのドリンクに至るまで全てがピンク色に統一されていた。

事前にこのホステルの悪評判を読んだ時に、絶対にこんなところでは働きたくないし住むのも嫌だと思ったので一度断ったのだが、マグダに働くのは別の場所だし住む所は私の家だからと説得されて了承したのだった。だから何だか騙されたような気分だった。部屋には先にボランティアを始めた南アフリカ出身のビクトリアとアメリカ人のブレントがいた。二人とも同じく長期旅行者で、感じが良くすぐに仲良くなった。

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翌日から仕事が始まった。寝泊りするのはピンクパレスだが、実際に働きに行くのはマグダが経営するもう1軒のホテルで、こちらは夏しかオープンしていないため準備や掃除を手伝うことになっていた。朝ごはんを食べた後、他の従業員たちと車で30分ぐらいのところにあるそのホテルに出勤した。

私はキッチンの掃除をすることになり、その後何日かかけてキッチン中の鍋や皿やグラスを一人で洗った。大きなホテルだから結構大仕事だった。仕事は朝9時前からはじめて3時くらいに終わる。でもマグダがなかなか迎えに来てくれないので、ホステルに戻るのは4時過ぎで、移動や待ちなどを入れると一日8時間ぐらい拘束された。それに加え休みは日曜日だけと、労働条件はWorkawayが規定する週5日25時間以内というのを大分超えていた。

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来る前はそれでもオーナーであるマグダの家に泊めてもらって、毎日ギリシャ料理を食べられるなら良いかなと思っていたが、来てみると親切で丁寧なメールとは全く違うマグダの性格に驚いた。マグダはいつも神経を尖らせていて更年期真っ盛りのおばさんだった。仕事の後車で迎えに来る時は、門に着いてから30秒以内に乗り込まないとクラクションをがんがん鳴らされるし、一日中働いた後に更に彼女の自宅の家事などを手伝ってくれないかと頼まれることもしょっちゅうだった。とにかくいつも怒っているし、すぐ怒鳴るので頼まれると断れない雰囲気を出していて厄介な人だった。

食事も今まで働いてきたWorkaway先よりずっとシビアで、昼ごはんは毎日同じサンドイッチ1つ、夜ご飯はお客さんに給仕した残りを30分以内に食べてから食器の片付けをしないといけないし、汗をかきながら働いているのにタダで飲める水は500mlペットボトル3本以内までと、かなりケチだった。食事もギリシャ料理とは程遠い、冷凍食品を駆使したメニューばかりでアメリカの学校給食と同じ味付けだった。

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毎朝出勤する前に、昼に食べる人数分のサンドイッチを食堂で作ってもらわないといけないのだが、食堂は寝泊りする棟から階段を150段下りたところにあり、時間が無い時にこの階段を駆け上がると心臓が破れそうだった。一度なんて必死に階段を登ってきたのに通勤に向かう同僚の車に置いていかれたこともあるし(皆の昼食を取りに行ってるのに何で?)、同じ仕事をしているアルバニア人の男に妙な誘いを受けたあとキスされそうになったのを断ると、次の日からだんだんバカにされるようになり、同僚の前で陰口を言われたりと良い気持ちがしなかった。

多分条件が悪くても、感謝されながら働いていることを感じたり、マグダの性格に少しでも思いやりがあれば我慢できたんだろうけど、1週間働いてから「こんな人のために働くのはごめんだ」と思うようになった。マグダは私たちが働く先のホテルで可愛い犬を2頭飼っているのだが、「お金がないから」といってドッグフードを切らしたまま3日以上補充しなかった。犬はお腹が空きすぎて血の匂いを頼りに女子トイレのゴミ箱を漁ったりして可哀想で目も当てられなかった。

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また、マグダの正規従業員は皆毎日12時間労働していて、週に1日も休みがないということを知った。仲良くなったおじさんから話を聞いてみると、去年一年で休めたのはクリスマスの1日だけ、またお客さんの喧嘩を仲裁するときに負傷した指の治療費を出してもらえず、今は指が伸びたままの状態で使い物にならなかった。給料も安く、従業員や犬を奴隷のように扱うマグダを見ていると「こんな人のために1日でも働いてやるか」と思い出て行く決意をした。

南アフリカ人のビクトリアも「仕事が終わるのが遅すぎて観光にも出掛けられないし、ここにいる意味がない」と言い、思い切ってマグダに「今日で終わりにしたい」と言い出すと彼女は急に態度を豹変させ、「仕事が気に入らなかったのなら申し訳ない。今日で辞めて構わないし、3日間無料で泊めてあげるからいくらでも観光を楽しむといい」と拍子抜けするぐらい気前の良いオファーをくれた。おそらく私がWorkawayに悪いレビューを書くことを恐れて急に態度を改めたようだった。

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私は突然の休みに大喜びして早速観光に出掛けた。まずはコルフの中心街に住むサンディーに会いに行った。サンディーもとても喜んであちこち観光に連れて行ってくれた。

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サンディーとは年齢が倍近く離れているけれど、まるで昔から知っている友達のように気兼ねなく付き合うことができた。夜は夕飯に美味しいラザニアを作ってもてなしてくれた。

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サンディーの飼い猫、カモミリとロージー。あまり人懐っこくない、わが道をいく猫たち。

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コルフにはイギリス王族の古い別荘があり、エリザベス女王の夫であるフィリップ殿下もここで生まれたらしい。別荘裏にある昔王族たちが泳いだ小さな入り江は、今は地元の人たちしか知らないスイミングスポットになっている。

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翌日サンディー宅からホステルに戻り、ボランティアは無料で参加できるホステルツアーにビクトリアと参加した。本当はカヤックツアーのはずが天気が悪かったのでシティーツアーとなり、またコルフ町に舞い戻った。城塞跡から旧市街を見下ろすとまるでジブリ映画のような色の町並みが広がっていた。

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その次の日はビクトリアとちょっと遠出してバスで1時間半くらいのところにあるシダリというビーチへ行った。水が信じられないくらい透き通っていた。

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この日は上半身裸で泳いでいる女性をたくさん見た。多分ギリシャの人はこれが普通なんだろう。若い女の子たちも太ったおばさんも人目なんて気にせずざぶざぶ泳いでいた。

それからどこに行っても裸で泳いでいる女性をよく見かけたので、私もある時パンツだけ履いて砂浜で寝転んでいたらどこからか不審な男が現れて遠くから手を振ってきた。無視していたらいつのまにか私の横に立っていて背中を撫でられたので怒鳴って追い返したということがあった。サンディに言わせると周りに人がたくさんいるところじゃないとだめで、かつアジア人が裸で日光浴していることなんてないから人目を引いてしまったらしい。ちなみにヌーディストビーチというのは全身裸の場合のみを指すのトップレスは含まれないそうだ。

サンディからの誘いでピンクパレスを離れたあとは彼女の家にしばらくお世話になることになった。移ってきた日には丁度キリスト教の祝日に纏わるパレードがあり、煌びやかな民族衣装に身を包んだ女性たちが舞い踊る姿を見ることができた。

IMG_3688 IMG_3603 IMG_3747 IMG_3758 IMG_3759数日後にはサンディのパートナーであるニコも一週間遅れてアテネからやってきたので、二人揃って観光大使となり私をあちこちへ案内してくれた。コルフ町には何故かアジア芸術を集めた美術館もあり、私が居たときは丁度浮世絵と春画の展覧会が行われていたので三人で行ってみた。思ったよりも規模が大きく、展示されている作品も多岐に渡っていた。期待して行った春画はあまりパンチが効いたものが少なく、作品数もわずかだったのでそれにはがっかりしたけれど、全体としてはとても素晴らしい展覧会だった。

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サンディとニコは更に、今は無きサンディの お父さんが生まれ育った村にも連れて行ってくれた。その村は観光地化されていない田舎の純朴な村で、のどかな自然が広がっているところだった。昼はサンディの同級生が経営する海辺のレストランで食事した。

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ムール貝のワイン蒸しを頼むと、3人分くらいの量が出てきて驚いた。口に含むと、取れたての新鮮な貝の味と白ワインの香りとにんにくの香ばしさが相まって今まで食べたことのないくらい感動的な美味しさだった。

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サンディは「ここは昔から漁師の家族が直接経営しているところだからね。鮮度は抜群だし値段も良心的なんだよ」と教えてくれた。これが漁師の料理か・・・やっぱりギリシャは違うなぁ、日本の漁師はワインなんか使わないからなぁと感心した。

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昼を食べたあとはハリクナスというビーチに移動した。そこはとても変わった地形で、砂浜が海と海岸線近くまで広がった湿地の間に挟まれているところだった。

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着いた時間が少し遅かったので、次の日に泳ぐことにしてその日は散歩しながら夕日を見に行った。誰もいない砂浜をずっと歩いていると、そこが島であることを忘れてしまいそうだった。サンディによると、近年は本土のギリシャ人を含めた観光客が大勢来るようになったけれどサンディが子供の頃は文字通り誰もいなかったらしい。私たちは幸いシーズンが始まる前に訪れたので、その静けさを楽しむことができた。

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夜はサンディの古くからの友達が経営する民宿に泊まって、自家製ワインを飲みながら夜遅くまで話した。ギリシャは経済危機にあって一般の人の生活も前と比べると決して楽ではないようだけど、彼らはそんなことを感じさせないくらい人生を楽しんでいる。そんな姿を見ていると、日本人って損しているなと思う。彼らの何倍もお金を稼いでいるのに、そのほとんどを貯蓄にまわし、ろくに旅行もせず、毎日朝から晩まで息つく暇もなく動き回っている。未来のことを考えるばかりでいまを生きることを忘れている。本当にもったいない生き方だと思う。

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翌朝は雨が降っていたけれど海へ行き一人で泳いだ。雨が降ったあとは不思議と海水が温かいから泳ぎやすい。

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サンディは友達のぶどう畑からぶどうの葉っぱを切らせてもらって袋につめていた。ドルマというごはんをぶどうの葉で巻いた料理を作るためらしく張切って葉っぱを厳選していた。各人思い思いに田舎で過ごす休日を満喫したあと、夕方過ぎにバスで町に戻った。

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その二日後ついにコルフを離れるときが来た。離れる前の晩はお礼に日本食を作った。サンディの家にいる間何度も食事を作ったけれどサンディもニコもいつも何を作っても喜んで食べてくれた。食事の後は皆でyoutubeのビデオを見て、日本の景色や音楽を紹介した。二人とも初めて見るものばかりだったようで驚いたり笑ったりしながら深夜過ぎまで盛り上った。

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また次に向かう街に二人の古くからの友人がいるので、その人に連絡して私を泊めてくれる様に頼んでくれたり、信じられないほど親切にしてもらった。最初は得体の知れない旅行者をちょっと怪しんでいたニコも、私を妹か娘のように世話を焼いてくれるようになり、感謝してもしきれない気持ちでいっぱいになった。

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二人に会わなければ、コルフ島での思い出は散々なことになっていただろう。あの時フェリー乗り場でサンディに声を掛けなければ、そしてもしWorkawayが上手くいっていたら彼女の家でこんなに長く過ごすこともなかっただろう。色々な偶然が重なり合って、コルフ島では思っても見なかった素晴らしい経験ができた。

出発した日の朝早く、私が乗ったタクシーが見えなくなるまで手を振るサンディとニコの姿を見ているとふたりのあたたかい気持ちが伝わってきて胸がじんとあつくなった。

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