翌朝荷物を持って駐車場に行くと見たことのない車が停まっていた。ロシア製ジープというやつで、ミニバスの車高と窓の位置を高くして後ろと前からぎゅっと押さえつけたような不思議なフォルムをしていた。見るからにオンボロで何十年と走っているようだった。このジープで毎日砂漠の中を六時間以上走るというのはとてもじゃないけど信じられなかったし、あんなに高いお金を出したのにこんな車しか手配してもらえないなんてひどいぼったくりだとも思った。ガイドのドギーは20代前半で普段は大学で英語を教えていて、夏場だけガイドをしている明るくて元気な女性だった。ドライバーのガンゾリックはドギーよりも更に若くて少年のような出で立ちだった。
車はスラム街のようなところを走った。家と家の間は粗末な木の柵で仕切られていて、狭い敷地の中には遊牧民が住むゲルが建っているだけだった。道にはゴミが散乱していて、中心部とは打って変わって荒れていた。その後ひどいでこぼこの道を30分位走った。まるでマッサージチェアの「強」にずっと揺られているようだった。そこを抜けるとついにテレビのイメージどおりの草原が広がっていて、ヤギや羊が草を食んでいることに感動した。
モンゴルは不思議な国だった。草原には遊牧民のゲルと家畜の群れ以外には何もない景色が何百キロも続いているのに急に「町」が現れるのだった。文字通り草原や砂漠の真ん中に、ぽつんと集落があって時には5世帯、時には百世帯もの人がそこに住んで町を形成していた。一体なんでここに集落があるのか全く分からないようなところに。
給油でとまったガソリンスタンドのトイレに入って驚いた。地面に大きな穴が掘ってあってその上にコンクリートや木で足場を作っただけの中国スタイルだった。息を止めながら用を足し、改めてこの国での水の大切さを思い知った。モンゴルは都市部以外の地域には配水がなく、水が必要な時は井戸水や雨水をためたポリバケツを使うのだった。でもそのうち皆トイレには入らず草原で用を足すようになった。隠れるところがなくて大変だけれど、慣れると実にすがすがしくて最高の気分になるのだった。
昼食に入った食堂では羊肉の炒め物とご飯が出た。モンゴルでは食事と共に必ずツーテンツァイというミルクティーが出る。ミルクティーというよりほとんどミルクとお湯で、バターが溶かしてあって薄い塩味がついていてほんのり茶葉の香りがする。だからミルクティーだと思って飲むとぎょっとするけれど、ミルクスープだと思って飲むと不味くない。でも私はご飯と牛乳を一緒に飲むのが苦手なので毎回これが出てくることには辟易してしまった。
ツアー初日は出発して9時間半経った頃ようやく目的地に着いた。ホワイトストゥーパという、砂漠の中の渓谷だった。サーティーワンのストロベリーチーズケーキみたいな色をしたキノコ型の岩が地表から突き出ていて、ギリシャ神殿のような景観を形成していた。その前には赤や白の砂山が広がっていて、皆夢中で登っては日が暮れるまで写真を撮り続けた。私は子供時代にアメリカの西部で見た砂漠を思い出し、こんな壮大な景色が隣の国にあったことに感激し、羊肉や冷水シャワーや過酷なトイレのことはすべて忘れて、この国を訪れてよかったとしみじみ思った。
夜は渓谷の近くの、ツアーと提携を結んでいる遊牧民のゲルに泊まった。砂漠の夜はかなり冷え込んだが、ゲルの中は暖房もないのに暖かくて不思議だった。夜中にトイレに起きると、夜空には無数の星が光っていた。最後にこんなに星をたくさん見たのはいつだっただろうか。砂漠の真ん中に掘ってある穴で用を足して戻ろうとすると、あたりがあまりにも真っ暗でどこにゲルがあるのかですら分からなくなってしまった。まるで宇宙に投げ出されたかのように星しか見えなかった。
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